このページはちょっとマニアックな大気光学現象の記録を掲載したものです。
初学者の方は基本のハロ・アークをご一読ください。
■なにが出現頻度を決めるのか
氷晶によるハロやアーク(のうち、屈折によるもの)は、氷晶によるプリズムの角度とそのときの氷晶の姿勢(配向:orientation)によって理解されており、ざっくりまとめると以下のようになります。例えば、てんでバラバラの方向を向いたランダム配向は実現しやすいでしょうし、少し落ち着いて長軸水平のカラム配向はまあまあ実現しそう(細長い紙が長軸を水平にしてくるくる落下するイメージ)です。しかし、パリー配向は長軸水平かつ側面水平が要求されるため、当然物理的に不安定な姿勢となります。よって、出現頻度は
22°ハロ > タンジェントアーク >> パリーアーク
配向だけではなく、氷晶自体の珍しさも重要です。例えばピラミダル氷晶という20面体の氷晶だと、頂角が60°や90°などの見知った角度以外で分光が起きるため、ふだんとは違う場所にハロが生じます(=ピラミダルハロ/異常半径のハロ)。
さて「基本のハロ・アーク」で紹介した現象の中には、毎日空を眺めている人ですら数年に1回程度しか見られないものがあります。そもそも「基本のハロ・アーク」で紹介した現象は大気光学現象の全てではなく、「基本と呼ぶにはマニアックすぎる」ものや「そもそも数える程しか観測したことがない」ものは紹介していません。
そこでこのページではそのようなハロや、世間的には珍しいと言われているハロをレアハロと呼称し、これまでの観察人生の中でも印象的なものを紹介していきます!
■レアハロの観察記録
1. ラテラルアークと46°ハロ
90°プリズムで、『カラム配向→ラテラルアーク(ラテラルA)』『ランダム配向→46°ハロ』となる。 両者を見分けるには、ラテラルAの形状がどのように変化するかを知っていれば大体わかる(上図参照)。 ただし、長軸(C軸)の揺れが大きい時は、カラム配向とランダム配向の区分が曖昧になるため、両者の区別も無意味となる。一般に、ラテラルAの方が出現頻度が高く、タンジェントA(=カラム配向由来)が生じていたら、ほぼ間違いなくラテラルAだと思ってよい。また、46°ハロの出現頻度はさらに低いとされているが、長年の観測から『明瞭な22°ハロが出ている時の画像を処理すると大抵46°ハロも現れる』ことがなんとなくわかっている。
このことから私は最近、これらの現象をレアハロとは認識していない。 …ただ、強調処理で見えたところで意味があるのかといえばそれまでだが...。
上部ラテラルアークとタンジェントアーク LAとTAを作り出す氷晶姿勢が同一であることから理解できる 2021年1月26日(詳細記事) |
下部ラテラルアーク BR法によりやっと下部LAと46°ハロの違いがわかる 2024年2月24日(詳細記事) |
46°ハロ 強調処理により顕になる。明瞭な22°ハロが生じていたら大抵、強調処理で現れる。 2022年7月28日(詳細記事) |
46°ハロ 複数の写真をパノラマ合成。肉眼でも確認できた。 2018年6月24日(詳細記事) |
2. パリーアーク
『長軸水平かつ側面水平(=パリー配向)』×『60°プリズム効果』により生じる。肉眼で分光していることが確認できることはまれである。しかし、強調処理を施すと「思いがけず綺麗に生じていた」と思うことが多々あり、年間数回は安定して記録できている。 とはいえ、たいていの場合それは「サンケーブ型上部PA」であり、サンベックス型や下部のパリーアークは非常に稀だといえる。いつかみてみたい。3. 幻日環と120°幻日
幻日環
結晶表面の反射で生じる。主にプレート配向の時に生じ、少しでも揺れがあるとどんどん淡くなってしまう。 (どこかで言及されているかもしれないが)幻日周辺でできる幻日環には「①幻日からスタートして伸びる幻日環」と「②幻日を貫いて生じる幻日環」の二種類があるように思える。シミュレートしてみると22°ハロ内部の幻日環は淡く生じているため、当然といえば当然かもしれないが(参考)。22°ハロに内接する幻日環 太陽高度と同高度に幻日環は生じる。太陽高度が高いため、22°ハロに内接するような特殊なディスプレイとなった。 また、もしかしたら...外接ハロとウェゲナーAの可能性もある。(参考) 2021年6月17日(広島) |
120°幻日
幻日環の上に生じる明るいスポットで、 天頂を中心にして太陽から120°の場所に生じる。120°幻日 高層雲気味の空だがしっかりと観測された。 2021年9月13日(詳細記事) |
4. ローウィッツアーク
六角板状の氷晶が、その六角形の対角線を中心に回転or振動している状態をローウィッツ配向という(HP冒頭の配向説明では未紹介)。この時60°プリズムで分光するとローウィッツアークが観測される。大抵は幻日から22°ハロへ接する短い線として現れるが、状態が良いともっと複雑な形状となる。なおローウィッツAは三種類(上部・下部・環状)存在し、それぞれ太陽高度によって形を大きく変化させる。ローウィッツアークとパリーアーク 幻日周辺に三種類のローウィッツアーク。同時にパリーアークも見られ、タンジェントアークとの違いがよくわかるようになった。 2024年10月25日(詳細記事) |
ローウィッツアーク(上部・下部・環状) 肉眼ではLowAの存在は正直わからなかったが、BR法により明瞭に表れていたことを知る。 2023年2月11日(詳細記事) |
ローウィッツアーク(上部) 上部LowA、PA、TAが入り組む複雑な形状 2023年12月30日(詳細記事) |
5. マルチディスプレイ・ハロ
複数の現象が同時に出現しているディスプレイに対して用いられるが明確な定義はない。そもそも、46°に生じる現象(ラテラルAなど)や幻日環が生じているような場合は、たいてい他の現象も生じているものである。とはいえ空観察者が切望する光景であることには間違いない。
マルチディスプレイ① |
マルチディスプレイ② |
2021年1月11日(詳細記事) | 2024年3月19日(詳細記事) |
右図は、タンジェントアークが付随しておらず環天頂アークが顕著である。
このことから、右の場合は細長い氷晶(=タンジェントAやラテラルAを生じさせうる氷晶)
はほとんど存在していないと推定できる。
【動画】マルチディスプレイ② |
環天頂アークが離れている様子がシミュレーションと同じで感動。 2024年3月19日(詳細記事) |
マルチディスプレイ③ |
2021年4月8日(詳細記事) |
6. 向日アーク
向日アークとは幻日環を除く、向日点(天球上における太陽と正反対の方位かつ同高度の点)を通るアークの総称である。 向日アークにはウェゲナーアークやへースティングアークなどがあり、いずれもカラム配向の氷晶によって生じる。 ただし、カラム配向いっても氷晶の揺れはほとんど許されず、大変シビアな現象である(参考)。ダイヤモンドダスト中では比較的頻繁に見られるらしいが、巻層雲に生じるそれはほとんど現れない。少なくとも日本で生活している私たちにとっては激レア現象である。ウェゲナーアーク 向日アークの一種。三重県でみられるとは...。 2021年4月8日(詳細記事) |
7. ピラミダル氷晶によるハロ
ピラミダル氷晶という稀な結晶により生じるハロをピラミダルハロ(pyramidal halos)という。 この氷晶は『六角柱の上・底面に六角錐台をつけた形』をしており平らな面が20面ある。 当然60°や90°などの見知った頂角以外にもプリズム角をもつため、見慣れた22°や46°以外にもハロが生じる。 なかなか異様な光景となることから「odd radius halos」ともよぶ。経験的に夏季に出現することが知られているが、出現は非常に稀である。
9°ハロ 高層雲気味だったため期待せずに見上げたらまさかの9°ハロ。それ以外の角度も怪しい。 2018年9月2日(詳細記事) |
ピラミダルプレートアーク ピラミダル氷晶がプレート配向になった時にみられる。「odd radius」の名がふさわしいと思う。 2022年7月24日(詳細記事) |
ピラミダルプレートアークの時間変化 赤道儀で太陽を追尾。貴重な記録となった。 2022年7月24日(詳細記事) |
月光のピラミダルプレートアーク 恒星と月の赤経赤緯から球面三角法を用いて離角を計算。 2019年4月19日(詳細記事) |
薄いピラミダル氷晶(?)による楕円ハロ
光源の周りに現れる小さな楕円形の輪を楕円ハロ(elliptical halo)と呼ぶ。 成因は薄いピラミダル氷晶によるものだと考えられており、このHPでは、ピラミダルハロ群として扱う。 光源近傍で生じるため観察しにくいが、月光の場合はそうでもない。まだまだレアハロ観察の野望は続く・・・