はじめに
2019年8月に行われた第52回気象予報士試験で合格しました. この時は,受験者数2957人のうち,合格したのは132人.そのうちの一人が私でした.難関を突破するのに必要なことの一つは情報だと考えています. 私は周りに気象関係の人が皆無で,暗中模索の日々でした. この体験も含めて,気象予報士試験を受けるまでの道のりを記録として残したいと思います.
誰かのお役に立つことができたら幸いです.
2019.10 Yusuke KOBAYASHI
勉強する前
私は現在(2019年10月),理系大学院生です. 普段から物理・数学を中心に高校生へ学習指導も頻繁に行なっていたので,数式の理解など,いわゆる「一般知識」受験のハードルは低い状態でした. また,このホームページを見てもらったらわかると思いますが,雲についての勉強もしており,それに伴って気象の知識もある程度持っている状態でした. そういう意味でも,受験のハードルは一般の人に比べると低かったと言えるでしょう.とはいえ,合格率約5%の試験を一発で合格することは容易ではないと思います. 少なくとも私の能力では不可能です. そこで,受験は2段階に分けることにしました. 受験を決めたのが10月で,試験まであと3ヶ月ちょっとしかないという状況もあっての決断でした.
受験勉強で使用した教材
受験を決めてから,教材を買い漁りました.これがその教材です. なるべく安く揃えたかったので,古本を駆使しました. テキストや問題集は合わせて1万円くらい. また述べますが,実技対策ように気象予報士試験受験支援会の教材を20000円(5事例×4000円/事例)購入しました. よって,勉強にかけた金額は大体3万円くらいです.
試験の過去問及び解説は,北上大様が運営するサイトめざてん(以下,めざてん様)をフル活用させていただきました. このように,受験にかかる費用はかなり安く抑えることができました.
それでは,2018年10月から第51回. そして,そこから2019年8月までの記録をご覧ください.
【一般・専門対策】 2018年10月〜
先に述べましたが,まずは第51回の試験では一般・専門試験の合格を目指しました. それなので,実技試験の勉強はまったくしておりません. 白状しますが,トラフ・強風軸解析や,前線の解析もできないまま(というより知らないまま)受験をしました.10月は基礎固めの時期としました. 一般も専門も基本的には【原理を理解する分野】と【覚えないと如何しようも無い分野】があります. 正直,原理を理解する(いわゆる理科)ところにはあまり困難は感じませんでした. 温度風や,コリオリ力の導出,静力学平衡などの原理は一般気象学で理解を深めました. 原理を理解する分野で楽をした分,覚えないと如何しようも無い分野は結構きつかったです. テキストを読んだだけでは頭に入ってこないため,この辺の分野は次の方法で学習を進めました.
- 参考書を読んで理解する(インプット)
- 本当に理解しているのか紙に書き出す(アウトプット)
- 過去問徹底攻略を使って,該当する分野を解く(アウトプット)
【一般・専門対策】 2018年11月中旬〜
精選問題集は,分野別に過去問が別れている問題集です. 先ほどの過去問徹底攻略よりも問題数が多く,解説が雑です. 解説が雑ということは,ある程度自分に知識がないと使いこなせないということです. その点でも,過去問徹底攻略→精選問題 の流れはスムーズに接続したと思っています. 精選問題集は次の流れで使用しました.- まずは1周する.
- 楽勝なところ→◯(今後解かない)
- 解けたが,解説は知らないことがあった→△
- 解けなかった→×
- そして,2周目以降は×,△を中心に演習を繰り返す
【一般・専門対策】 2019年1月〜1/27
試験まで1ヶ月を切っているのに,いまだに過去の試験問題を解いたことのない自分に焦りを覚えていました. 過去問は「気象予報士試験 模範解答と解説」で問題と解説が入手できますが,如何せん教材費にお金をかける余裕がなく,気象業務センターが掲載している過去問と解答(解説はもちろんなし)で頑張るしかないのかなと思っていました. しかし,ネットで色々探していたところ,北上大様が運営するサイトめざてんに出会いました.このウェブサイト めざてん では,過去問題のpdfファイルを非常にわかりやすく整理しています. そして何より,それらの解説を無料で公開していただいております. この熱量には驚かされますし,様々な場面で助けていただきました. このサイトの素晴らしさは実技対策のところで詳しく語りたいと思います.
とにかく一般・専門試験の過去問演習はほとんどこのサイトを使って勉強をしました. 第45回から第51回までの過去問についてを演習しました. 欲を言えば,もっと多くの過去問を解いた方が良いのですが,時間がもうほとんど残っていなかったことから, 多くの過去問を経験するより,目の前の一問を確実にできるようにするというスタンスで取り組みました.
この頃には,自分がどの分野が苦手なのかを把握している段階にいました. 特に,一般分野の,気象法規については,いつもひっかけ問題に騙されたり,単純に自分が忘れていたりと,いつも点を落としてしまう分野でした.
結局試験直前まで苦手なまま,運に任せるかとも思っていましたが,またもやめざてん様の気象法規に関するまとめのページに救われました. みてもらったら凄さがわかりますが,ポイントが明瞭簡潔で,即点数に直結します. 気象法規の問題は毎回出される上,難問奇問はほとんどないので,確実に点数を取りたい分野です. 試験直前期は,このような「覚えてないと答えられないよね」という問題を中心に演習・暗記を繰り返しました.
2019年1月27日第51回気象予報士試験
第51回の気象予報士試験は,2019年1月27日. 大阪産業大学がこの時の試験会場でした. 三重県の桑名駅から近鉄特急の始発に乗り,現地へ. 学研都市線の野崎駅がこの大学の最寄りなのですが,最寄りから結構距離があったのが印象的です.午前中に学科があり,午後からは実技試験です. 午前中の試験が終わったら実技試験は受けずに,そのまま大阪市立自然史博物館によって帰りました.
2019年3月8日合否通知到着
試験の結果は,科目 | 合格点 | 得点 | 合否 |
---|---|---|---|
一般 | 11 | 13 | 合格 |
専門 | 11 | 11 | 合格 |
実技 | X | X | 不合格 |
で無事,学科試験をどちらも合格することができました. 専門試験はギリギリですが,合格は合格です. 学科試験の合格は1年間免除の対象となるので,夏の試験に向けて,実技対策を有利に進めていくことができます.
次回の試験は8月25日.次は実技試験だけですし,ゆっくりと対策できそうです.
【実技対策】2019年3月9日〜2019年4月頃
正直この頃はあまり勉強に身が入らず,毎日勉強していたとは言えない状況でした. と言うのも,昨年度やっていた仕事がひと段落したり,大学院の研究が本格的に始まったりと,なかなか気象の勉強にリソースをさけない状況でした. また,第51回の時と違い,次の試験までまだだいぶ時間があるという精神的な猶予もあったからかと思います. とにかくあまり勉強をしませんでした.しかし,何もしなかったわけではありません. この期間は「実技試験とはどのような試験か」「どのような知識が必要になるのか」という情報収集をして,必要な参考書や問題集,勉強法などを確立させることにしました.
ネットを色々みてみるといろいろな情報がありますが,私は次のような計画で,実技試験に臨もうと決めました.
- 気象予報士簡単合格テキスト 実技編で実技試験はどのような問題が出るかを知る(基礎体力をつける)
- 過去問演習を繰り返し,めざてん様の解説で復習(事例の経験を積む)
- 気象予報士試験受験支援会様で通信添削(答案作成力をつける)
【実技対策】基礎固め 2019年4月中旬〜2019年5月初旬
この期間は,基礎体力をつけるために,気象予報士簡単合格テキスト 実技編を使って勉強しました.このテキストは「暗記必須の基礎知識や試験の情報」,「事例演習」の2つのパートで別れているので,これ一冊で気象予報士試験はどのような試験かを知ることができます.
基礎知識の頁では,天気記号や専門天気図の読み方,衛生画像の読み取り方,さらには様々な種類の天気図(850hPa,500hPa...)や作図問題についてなどがまとめられています. 他にも,冬期における500hPa面の非常に冷たい寒気は何度が目安か,850hPa面の相当温位集中帯のどこに地上の前線が解析されるかといったことは,問題演習に入る前に是非知っておいた方が良い知識や,実際に気象業務に携わった方の視点から書かれています. とにかくすごい本なので,受験生は必須だと思います.
この本を使ってまずは,暗記必須の項目の暗記をはじめました. 暗記を始めるとあることに気がつきます. それは覚えることが多すぎると言うことです. はじめは,暗記事項を完璧にしてから事例演習をしようと思ったのですが,まぁ無理なので,暗記はほとほとにして,5月の初旬から事例演習をはじめました.
【実技対策】事例演習開始 5月初旬〜6月初旬
このテキストによると,試験合格者が学習した事例の数は15~25事例であると紹介しています. このテキストで経験できる事例の数は7事例なので,この一冊だけやっても全然足りません. しかし,出題されやすいテーマを満遍なく学べるという点から,今後の過去問演習へも必ず役に立ちます.事例演習の仕方について,私は問題,解答用紙を全て印刷して問題をときました. 最初は,全くわからない問題だらけでした. そもそも問題が何を聞いているのかも理解できないものもありました. この演習を通じて,実技試験ではどんなことを聞いてくるのかが大体わかるようになりました. そして,案外簡単かもしれないとも思うようになりました. というのも,解説を読んだら理解できるものだらけだったからです. 実技試験では基本的なことしか聞いてこないということを少しずつ体感するような感じでした.
最終的に,この問題集の事例を最低2周はしました. そしていよいよ過去問題の演習に入って行くことになります.
その前に...実技試験の復習の仕方
その前に,実技試験の復讐の仕方を簡単にまとめておきます. 用意するものは,問題用紙をA4に2upで印刷(1部). 同様に解答用紙をA4に2upで印刷(1部). 天気図も同様にA4に2upで印刷(3部). そしてスティックのりとハサミ,色鉛筆,A4ノートです. その復習ノートの内容がこちらです.まぁ一般的な復習の仕方かなぁと思います. 暗記ものはノートの表紙にまとめてできるだけ目に入るように工夫しました. 雲の記号はベン図を使って覚えたり(なんと本番に雲の記号が出た!),語呂合わせで覚えたりするなどです。 この試験では,解析のセンスと同時に入れて欲しいキーワードや書き方があります. それも合わせて復習しました. また,自分の解答の癖を見るために,途中からは自分の解答と模範解答を見比べるようにしました.
【実技対策】過去問演習開始 2019年6月中旬〜
過去問演習では,第46~51回の12事例を演習しました. あまり多い方ではないと思います. 最初は「よーし,第40回まで解いちゃうぞ」と思っていたのですが,復習に数日かかるため,とてもじゃないけどそこまで事例を重ねることができませんでした.
過去問は,めざてん様から入手させていただきました. A4用紙に両面印刷し,トレーシングペーパーの代わりに書道の半紙を代用して75分間時間を測って演習を繰り返しました. また,解説もめざてん様の解説を利用させていただきました. このサイトは解答解説を載せているのではなく(いや,載せてもいるけれど),解答に至るプロセスや,文字数から逆手流的に出題者が書いて欲しい要素を予想する思考を公開しています. この,合格する人は問題を見て何を考えるかということが非常に参考になりました. また中には,「これは出題者の意図がわかりません」とか「これを本番でできる人はすごいです」といった受験生の目線に立ったスタンスが好きでした. これにより,「気象予報士試験って,こういう問題も出るんだな.よし,確実に点を取れるところを取ろう」というモチベーションに切り替えることができました.
結局,過去問演習は,めざてん様の解説のみで,試験に臨みました.
【実技対策】気象予報士試験受験支援会様による添削指導
とはいえ,自己採点による過去問演習だけだと,自分の答案がどれくらい評価されるのか全く分かりません.気象予報士試験は,正しいことを書いても,出題者が期待する答案でないと部分点がもらえない(らしい)試験なので,他者による指導が必要不可欠です. 私の周りには気象をやっている人間が皆無でしたので,通信添削を活用することにしました.
通信添削は様々なところが行なっています. そのほとんどは,十何万かするのが相場で,貧乏学生の私ではとてもじゃないけど受けられないものだらけでした.
私のニーズは,自分の答案の指導を通じて,問題の解き方や答案の作り方を直接指導して欲しいというものだけだったので,いくつか事例を購入して,それを添削してもらうだけの団体を探しました.
その結果,気象予報士試験受験支援会様に出会うことができました. 同会は,気象予報士簡単合格テキスト 実技編を出版しており,そこで知りました.
支援会の代表者の方と受講の相談をして,
- 寒冷低気圧による不安定な天気
- 梅雨
- 台風
- 冬の記録的寒波
- 南岸低気圧
の5事例を添削していただくことになりました. 問題+添削+質問を数個で1事例4千円(2019.6時点). 高く見えるかもしれませんが,業界最安値だと思います. 5事例購入したので,2万円の出費となりました.
結論から言うと,この通信添削を受けて本当に良かったと思います. 自分の答案の抜けている要素や,変な癖が知れたり,こんな感じでいいのかな?と思って書いた解答に花丸がついていたりして,自信を深めることができました.
2019年8月25日 第52回気象予報士試験
前回同様大阪の会場を選びました. 住まいが三重県なので,名古屋あたりでやっていただけると助かるのですが,仕方ありません. 前回とは違い,午後からの試験なので,優雅に試験会場に向かいます.今回の会場は,前回と違い大阪市立大学で行われました. 私は2科目免除での受験だったので,そういった人たちのいる教室で受験をしました. 前回の時に比べると,かなりガチ感がある受験生だらけでした. 試験が終わって会場を出たのは16:30くらい. そのままブラブラして,鶴橋で焼肉食って帰りました.
実技試験を受けて
私は第51回の試験の時に,学科だけ受けて帰ったので,実技試験の雰囲気を全く知らない状況で受験しました. 今になって思うと,あの時,雰囲気だけでも知るために受験しておけばよかったなぁと思います.例えば,問題用紙は両面印刷だけど,天気図は片面印刷とか,解答用紙を配られた後に問題用紙が配られるとか,問題と天気図は問題の背表紙がのり付け+ホチキス止めとか知っていれば,もう少し本番に沿った演習ができたかも知れないなと思います.
私は,問題と天気図は別の冊子で渡されると勝手に思っていたので,切り取り線で天気図を切り離すか否かをその場で決めました. ちなみにこんな感じにしました.
天気図がバラバラになるのが嫌だったので,分冊しただけです.
2019年10月4日 合格発表
試験が終わってから1ヶ月ほどで,合格発表日を迎えました. ちなみにこの期間勉強は全くしていません. 理由は,忙しかったのと,試験が終わったという脱力があったからです.合格発表は10時にホームページにアップされました. それによると,合格点は68%以上. うーーん,ギリギリかな?と思って受験番号を見たところ,合格していました. 良かったと思うと同時に,解放されたとも思いました. その後,郵送で合格通知書が自宅に郵送されて,晴れて合格を手にしました.
受験が終わって
さて,一応これで晴れて準専門家になったわけですが,正直なところ,自分は気象の専門家になれたとは思っていません. 資格試験に合格するということと,気象に詳しくなるということは似て非なることだからです. 気象予報士になった今からが勝負だと思います. 当ホームページの運営を通じて,さらなる自己研鑽を行なっていくつもりですので,今後ともよろしくお願いします.
長くなりましたが,様々な解説を掲載して下さっためざてんを運営する北上大様,添削指導をしていただいた気象予報士試験受験支援会様にこの場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います. ありがとうございました.
2019.10 Yusuke KOBAYASHI
追記
この文章は,blogger上で公開していたものとほとんど同じです。 ホームページ開設に伴って移転しました。